Take home message
・SIADはeuvolemic 低Na血症の代表疾患
・診断としては、臨床的に体液量正常で尿中Na > 30mEq/LであればほぼSIADといってよい
・状況に応じて、副腎不全、甲状腺機能低下症を除外する
・SIADの原因は多岐に渡るが、癌、肺疾患、頭蓋内疾患、薬剤が主なもの
・低Na血症による中等度〜重度の症状がある、脳浮腫の進行が致命的になる場合は3%生食で緊急治療を行う
・それ以外の場合は、原因への治療に加えて、水分制限、塩分・蛋白摂取、トルバプタンで治療を行う
低Na血症と体液量、AVPの関係
・低Na血症は、NaとKに対する自由水の過剰を示しており、腎臓からの自由水排泄障害が原因として多い
・自由水の排泄障害は、AVP分泌増加に依存する
・AVPは、抗利尿ホルモンであり、ネフロンの集合管のV2受容体に結合し、水の再吸収を促進する
・AVPは、浸透圧刺激(高張度)と血行動態刺激(有効動脈血流の低下)によって分泌される
・低Na血症は、体液量により体液量低下(hypovolemia)、体液量正常(euvolemia)、体液量増加(hypervolemia)に分けられる
・hypovolemiaと一部のhypervolemia(ex.心不全)では、有効動脈血流低下によってAVPが分泌され水の再吸収が生じる
・一方、euvolemiaのSIADは、浸透圧刺激や血行動態刺激が無いのにも関わらずAVPが分泌される(それゆえ「不適切 inappropriate」と名付けられている)
・低溶質摂取(bear potomania)、AKI、CKD(stage G3-5)では、AVP分泌とは関係なく、自由水の排泄障害を来たし低Na血症を来す
・自由水排泄を上回る過剰な水分摂取による低Na血症を生じることもある(水中毒)
SIADの臨床像
・高齢者(>65歳)の入院患者の40%が低Na血症を持ち、その25-40%がSIADによるもの
・高齢者に多い理由としては、基礎疾患(癌、肺疾患、中枢神経疾患)やSIADを生じやすい薬剤の影響がある
・SIADの症状は、低Na血症の進行の早さと低Na血症の重症度と持続時間による
・急性SIAD(発症<48時間)では、脳浮腫の影響により軽度や非特異的症状(ex.脱力、頭痛)から重度や致死的症状(ex.痙攣、昏睡)まで至る
・慢性SIAD(発症≧48時間)では、脳容積調整機能により通常症状はわずかであるが、重度の慢性SIADでは悪心・嘔吐、頭痛、混乱、せん妄、痙攣を起こすこともある
・慢性SIADと関連する他の症状としては、認知機能障害、歩行障害、転倒、骨粗鬆症、脆弱性骨折などがあり、自然な老化と間違われることがある
診断
・臨床的に体液量正常(euvolemic)低Na血症であることを確認する
・身体診察での体液量評価は感度・特異度ともに低く、ガイドラインでは尿浸透圧と尿Naを測定することが推奨されている
・尿検査で、Na排泄亢進(Na>30mEq/L)、不適切な浸透圧(>100 mOsm/kg)の所見はSIADと合致する
・これらの所見であっても、副腎不全と重度の甲状腺機能低下症を除外する必要がある
(実際には、診断に必要な尿検査や血液検査は省略されることが多い)
個人的な意見
診断基準のすべての検査を行う必要はないと思います。(特にAVPは測定できない施設や検査までに時間がかかることとも多いと思うので)
同じく全ての患者で副腎不全、甲状腺機能低下症を除外することは不要に思いますが、原因不明の低Na血症では一度評価してもよいかと思います。(特に外来患者)
血清尿酸値が下がっていることも参考所見になります。
SIADの原因
原因のカテゴリー
- 癌(肺小細胞癌が代表)
- 肺疾患(肺炎など)
- 頭蓋内疾患(脳卒中、頭部外傷、感染など)
- 薬剤(SSRI、抗がん剤など)
・SIADの原因は非常に多い
・Hyponatremia Registryによると、原因の主なカテゴリーとしては、癌(24%)、特定の薬剤(18%)、肺疾患(11%)、中枢神経障害(9%)であった
・他の原因としては、運動、疼痛、ストレス、重度の悪心、術後、まれにV2受容体遺伝子異常(腎性SIAD)がある
・2つ以上の原因があることもよくある
・評価の程度や患者の年齢によって異なるが、17-60%のSIAD患者で原因を特定できないことがある(高齢者の方が多い)
・臨床的に原因の手がかりがない場合は、専門家は一般的に頭部と胸部のCT検査を推奨している
・これらの検査で異常がなければ、腹部と骨盤CTも考慮する
緊急治療
以下の状況で緊急治療が必要となる
①重度の症状(傾眠、痙攣、心肺機能障害、昏睡)を来している場合
②中等度の症状(嘔吐、混乱)を来しており、進行リスクが高い場合(術後状態や運動関連など)
③頭蓋内疾患(ex.SAH、頭部外傷など)に伴う低Na血症の場合(脳浮腫の進行が致命的となる)
従来法
3%生食を持続投与し、数時間で1-2mEq/h上昇させる
24時間で8-10mEq/Lまで、48時間で18-25mEq/Lまでの補正に留める
現行ガイドライン
3%生食を100mL(10分)もしくは150mL(20分)ボーラス投与し、必要に応じて2-3回繰り返す
治療目標は、1-2時間以内に4-6mEq/L上昇させることであり、これにより脳浮腫症状を改善させること
24時間での補正上限を10mEq/L、48時間での補正上限を18mEq/Lとしている
・慢性低Na血症を過剰に補正することにより、浸透圧性脱髄症候群(ODS)のリスクが上昇する
・ODSは稀ではあるが、橋中心や橋外構造を障害し、腱反射亢進、仮性球麻痺、パーキンソニズム、閉じ込め症候群を引き起こす可能性があり、死亡につながることもある
・ODSの高リスク患者(Na<110mEq/Lの慢性低Na血症、アルコール使用障害、肝疾患、肝移植、K欠乏合併、低栄養)では、24時間での補正上限を8mEq/Lとする
・他の専門家は、24時間の補正上限をODSの低リスク患者で8mEq/L、ODSの高リスク患者で6mEq/Lとさらに制限することを推奨している
・低Na血症が急性であることがわかっていれば(術後に進行した低Na血症など)、補正上限は特にない
・しかし、通常は低Na血症の持続時間は確認できない(そのため慢性低Na血症として治療する)
・緊急治療は、厳重なモニタリング(理想的にはICUでの管理)と専門家への相談(集中治療専門医、腎臓専門医、内分泌専門医など)が必要
過剰補正の対応
過剰補正が生じた場合は、緊急対応が必要であり、以下を行う
①3%生食を中止
②5%ブドウ糖の投与
③応急治療としてデスモプレシンを投与
・原因薬剤の中止や一過性SIAD(術後状態など)により、自由水排泄が改善しNaの過剰補正が起きることがある
・このリスクに対応するためにデスモプレシンを使用できる
・カリウム補正は血清Naを増加させる効果があるため、低Na血症を治療する際にはK補正には注意する必要がある
個人的な意見
ガイドラインでは緊急治療として3%生食ボーラス投与での治療を推奨されていますが、過剰補正のリスクが高いことは容易に想像されることであり、実際に過去の研究でも多いという結果でした。
低Na血症の症状は少し数値を改善させるだけで改善されることが多いので、初期治療はボーラスで開始して4-6mEq/L程度上昇したら、後はゆっくり持続静注で補正するというハイブリット治療を行えば効率的かつ安全な気がします。
非緊急治療
SIADの原因に対する治療
・治療可能なものであれば介入を行う
・原因不明なことも多い
水分制限(中等度 <1.5L/日、重度 <1.0L/日)
・第一選択の治療
・低コストで安全だが効果は限られる
・尿量<1.5L/日の場合や尿浸透圧>500mOsm/kgの場合は水分制限に反応しないことが予想される
・RCTで慢性SIADに対する効果は示されている
塩分摂取(2-5g/日)、尿素摂取(15-60g/日)、蛋白摂取(1g/kg/日)
・RCTのデータはない
・後方視的研究では、塩分タブレットでNa上昇を認めた
・観察研究で尿素摂取は安全にNa上昇を認めた
・腎性SIADに対しても尿素は有効であった
・SIAD患者は一般的に蛋白摂取量が少なく、蛋白摂取量を1g/kgまで増量すると尿素摂取を模倣して低Na血症の改善が期待できる(効果を裏付けるデータには乏しい)
トルバプタン(7.5mg/日から開始 60mg/日まで増量可)
・集合管のV2受容体に拮抗する薬剤であり、高い有効性がある
・2つのRCTを解析した研究によると、4日で5.3mEq/L、30日で8.1mEq/Lの上昇が得られた
・トルバプタン内服患者は飲水制限があまり必要なく、入院期間も短かった
・一方で、口渇やドライマウスがよく見られ、過剰補正が5.9%で生じた
・トルバプタンは高張食塩水との併用は禁忌であり、Na<120mEq/Lの患者への使用は注意が必要
エンパグリフロジン
・SGLT2阻害により、尿糖による浸透圧利尿を促し、SIAD治療に有効な可能性がある
・RCTにおいてもNa上昇を認めている
・まだ確立した治療法ではない
参考文献
N Engl J Med. 2023;389:1499-1509.(PMID: 37851876)
J Clin Endocrinol Metab. 2022;107:2362-2376.(PMID: 35511757)
米国の低Na血症ガイドライン:Am J Med. 2013;126(10 Suppl 1):S1-42.(PMID: 24074529)
欧州の低Na血症ガイドライン:Eur J Endocrinol. 2014;170:G1-47.(PMID: 24569125)
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