Take home message
・痙攣が5分以上持続したら、SEと判断し、積極的に治療介入を行う
・SEと判断したら、まずはBZD系薬剤の静注(ex. ジアゼパム静注)で発作を抑える
・次に、抗けいれん薬(ASM)を投与する(ex. レベチラセタム静注)
・それらの投与でも抑えられない痙攣は、RSEと呼ばれ、麻酔薬の使用を検討する(ex. プロポフォール、ミダゾラム)
・麻酔薬の使用でも、抑えられない発作はSRSEと呼ばれ、麻酔薬の併用やバルビツール系薬剤の使用を検討する
・SE治療中には、常に呼吸状態、循環動態に注意すべき
各用語の定義
・てんかん重責(SE)は、発作が一定時間以上持続するか、患者のベースラインの状態に戻る前に発作が再発するものと定義される
・SEは大きく、痙攣性てんかん重積(CSE:convulsive SE)と非痙攣性てんかん重積(NCSE:non-convulsive SE)に分けられる
・t1(CSEでは5分、NCSEでは10分)は、これを超えると発作の自然停止が困難になる時間
・t2(CSEでは30分、NCSEでは60分)は、これを超えると神経障害による後遺症が生じる可能性がある時間
※一般的にはt1を超えた場合にSEと判断し、積極的な治療介入が必要
難治性てんかん重積(RSE:refractory SE)
BZD系薬剤を含む少なくとも2種類の抗けいれん薬(ASM:antiseizure medications)を使用しても臨床的 and/or 脳波で発作が持続している場合
超難治性てんかん重積(SRSE:super-refractory SE)
麻酔薬(ミダゾラムやプロポフォールなど)の使用にも関わらず、投与中や減量中に発作が出現する場合
NORSE(new onset RSE)
明らかな急性の構造的、毒性、代謝性の異常がない、もともと健康であった患者に生じるRSE
FIRES(febrile-induced refractory epilepsy syndrome)
1-14日先行して発熱を来たし、その後SEを来す、もともと小児で報告されていたがいずれの年齢でも生じるとされているNORSEのサブグループ
疫学
・SEは若年と高齢者に発症しやすく、Jカーブの分布となる
・SEのうち、RSEは1/3、SRSEは1/20の割合で生じる
・SEを罹患する最大で半数が以前てんかんと診断されている
・CSEは脳波がなくても診断可能だが、非痙攣性SE(NCSE)には脳波は必須となる
・ICU患者の原因不明の意識障害の最大15%がNCSEという報告もある
・CSEの多くの症例で痙攣が停止した後も、脳波で活動を認めることがある
・強制閉眼、低酸素血症や高乳酸血症を伴わない遷延性痙攣を伴う患者では、心因性非てんかん発作(PNES)の可能性を念頭に置くべき
・CSEに関するRCTでは、遷延性痙攣を呈した患者の10%にPNESが認められ、そのうち20%がICUに入室していた
・反対にICUでは、発作・けいれん重積の90%以上が非痙攣性(脳波でのみ検出可能)である一方で、異常な運動を示す患者の3/4は実際には痙攣していないことが示されており、ビデオ付き脳波の重要性が強調されている
治療・マネジメント
初期評価
・他の緊急疾患と同様に気道と心血管系の機能を速やかに安定化させることが最も重要
・ほとんどの場合で、脳画像検査を含む包括的な検査的ワークアップを行い、根本的な病因を特定する必要がある
・根本的な病因が特定された場合は、それに対する治療が最も成功率が高い
・SEに対する薬物治療は、伝統的に3段階に分類されている
・ガイドラインの遵守は、主にCSEのエビデンスに基づくものだが、SEの不適切な管理によるリスクを最小限にし、RSEへの進展を予防することを目的としている
1st step:early SE
・いくつかのRCTによると、BZD系薬剤が第一選択薬となる(国内ではジアゼパム静注が一般的)
・呼吸抑制のリスクは、BZD系薬剤が投与された患者よりも未治療の発作が持続している場合の方が高い
2nd step:established SE
・これにはBZD系薬剤とよく併用される非鎮静ASMが含まれる
・最近の研究では、ホスフェニトイン、バルプロ酸、レベチラセタムの同等性が証明された
・注意すべき点としては、バルプロ酸とフェニトインは相互作用があり、ルーチンでの併用は推奨されない
・代替薬としては、ラコサミド、ブリバラセタムであるが、十分な研究がない
3rd step:refractory SE(RSE)
・1st lineと2nd lineの治療にも関わらずSEが持続または再発する場合に、RSEと呼ばれる
・難治性のCSEのガイドラインでは麻酔治療のためにICU入室が推奨されている
・同様の戦略は、NCSE患者にも適切と考えられる
RSE/SRSEに対する治療
RSEに対する治療戦略
・RSEの治療目標は、発作の消失である
・発作が停止するまで麻酔薬のボーラスを順次投与し、維持投与を開始することで達成される
・発作制御を維持するためには、追加投与や投与速度の増量がしばしば必要となる
・RSEの治療を受けた約半数の患者では、治療中(ブレイクスルー発作)または漸減中・漸減後(離脱発作)にほとんどの場合に非けいれん発作を起こすため、臨床的な発作の抑制のみを目指すのでは不十分であり、非けいれん発作も制御できるようにするためにはビデオ脳波モニタリング(cEEG)が必要である
・支持するエビデンスは少ないが、多くの専門家は深鎮静による合併症を軽減するために、毎日数回の発作は許容されることが多い
・発作の消失が達成された後に、麻酔薬を維持すべき時間に関するエビデンスは不足している
・専門家の意見に基づくガイドラインでは、24-48時間の鎮静が推奨されている
・麻酔薬の離脱方法に関するエビデンスや専門家の推奨はない
・離脱発作やSEの再発リスクを最小限に抑えるためには、数時間かけて徐々に投与速度を漸減していくのが妥当と考えられる
・いずれにしても、漸減中や漸減後は少なくとも24時間は脳波を注意深くモニターし、離脱発作やSE再発に注意することが重要である
・再発した場合には、発作抑制が達成されていた投与速度で麻酔薬を再開するか、別の麻酔薬で発作抑制を試みるべきである
SRSEに対する治療戦略
・RSEの最大2/3では、麻酔薬による発作のコントロールが得られる
・多くの治療法が考えられるが、RSEの治療法よりもさらにエビデンスが限られる
・最初のアプローチは、別の麻酔薬(発作を抑制するために2剤以上の併用が必要な場合もある ex.プロポフォールとミダゾラムの併用)を使用する
・この段階では、低血圧と心抑制が麻酔療法のさらなる強化を制限する重大な問題となることがある
・ケタミンは、NMDA受容体拮抗作用という異なる作用機序を持ち、心機能、血圧サポートの作用があるため、有効な選択肢となる
・RSEの第一選択薬ではないが、チオペンタールおよびペントバルビタール(バルビルツール系薬剤)はSRSEに使用することができ、最大80%の発作制御が可能である
・合併症はほぼ不可避であり、感染症や低血圧などが含まれる
・非鎮静性ASMは、SRSEの段階でも使用でき、多くの場合、麻酔薬と併用して使用されるが、エビデンスは限られている
・迅速な投与と安定した血中濃度を達成するために静注薬が望ましい
NORSEについて
・NORSEのうち、約50%の症例で原因が特定される
・多い原因としては、自己免疫性脳炎(19%)、腫瘍随伴性脳炎(18%)、感染症関連(8%)がある
・残りの半数の原因不明のNORSEは、cryptogenic NORSE:C-NORSEと呼ばれる
・他の多くの神経疾患と異なり、SRSEの管理は、特定の根本原因を診断する前に、まずは発作をコントロールする治療を重視される
・実際に、GCSEやNCSEの早期管理は、良好な転帰と関連している
・しかし、標準的な発作コントロールの治療を行っても発作が持続する場合は、入院初期に発作の根本原因の特定と治療を優先しなければならないこともある
・場合によっては、原因に対する直接的な治療でしか発作をコントロールできないこともある
NORSEのカテゴリー
①炎症性・自己免疫性脳炎
②まれな感染性脳炎
③遺伝性・先天性疾患
④毒物・薬物・介入関連障害
・自己免疫性脳炎が証明された、または、疑われる患者には、高用量メチルプレドニゾロン(1g/日、3-5日間)と免疫グロブリン静注(0.4g/kg/日、5日間)または血漿交換(5-7回)を併用し、その後、リツキシマブを投与することを推奨する
・このような症例では、早期治療が良い転帰につながるため、病原性抗体やその他の一般的でないSEの原因について速やかにスクリーニングを行うことがマネジメントを最適化するために必要である
参考文献
Intensive Care Med. 2024 Jan; 50: 1-16.(PMID: 38117319) SEマネジメントのReview
Neurology. 2019 Apr 23;92(17):802-810.(PMID: 30894443) NORSEのReview
コメント
コメント一覧 (1件)
NORSEの症例で、免疫療法まで踏み込むかどうかはかなり悩ましい選択になりそうです。