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くも膜下出血(SAH)

Take Home massage

・突然〜急性発症の重度の頭痛ではSAHを疑い、まずは頭部単純CT

発症6時間以内でCTに異常なければ除外発症6時間以降でCTに異常がなくてもSAHの疑いが強い場合には腰椎穿刺などの他の検査を用いて追加評価を行う

・SAHの診断となった場合は重症度スコアリング(Hunt-Hess、WFNSなど)を行う

・再発予防として発症24時間以内に破裂動脈瘤に対する治療を行う(クリッピング術 or コイル塞栓術)

・急性期は静注降圧薬で降圧管理を行う(目標血圧は定まっていないがSBP<140-160mmmHg程度)

発症4-14日では脳血管攣縮、遅発性脳虚血が生じる可能性があり、euvolemiaの管理日々の神経所見の変化を評価する

・日本では予防薬として2022/1にクラゾセンタンが承認された

・遅発性脳虚血が生じた場合は、血圧上昇とeuvolemiaの維持を行う

目次

総論・疫学

・非外傷性のSAHは、80%が頭蓋内動脈瘤の破裂による(動脈瘤性くも膜下出血 aSAH)

・他の原因には、血管奇形や血管炎などがある

・他の脳卒中よりも若年に発症する傾向にあり、大きな社会的損失につながる

・生存したSAH患者の半数が、長期的な神経心理学的な後遺症のためQOLの低下につながる

・動脈瘤の早期同定と治療は、再破裂を防ぐ

・非動脈瘤性SAHの最大10%では血管異常を伴わず、外科的治療や血管内治療が必要ないと考えられている

好発年齢は50歳代前後で、女性が男性の2倍多い

頭蓋内動脈瘤について

人口の1-2%で発生する

・動脈瘤は通常、頭蓋内動脈の分岐点に形成される

第一親等に動脈瘤の家族歴があるとリスクが上昇し、その人数が多いほどリスクとなる

・特定の結合織病(Ehlers-Danlos症候群など)や多発性嚢胞腎の罹患者はリスクが上昇する

・動脈瘤破裂のリスクとしては、黒人、ヒスパニック、高血圧、現喫煙者、アルコール乱用、交感神経刺激薬の使用、≧7mmの動脈瘤がある

・SAHの初回の破裂、再破裂を含めた死亡率は25-50%と報告されているが、医者の診察前の死亡患者は含まれていない

臨床症状

「人生で最悪の頭痛」を特徴とする

・頭痛は、突然発症で程度は重度であり、数秒で最大の痛みに達する(thunderclap haedacheとして知られる)

・患者の10-40%で、SAHの発症前の2-8週以内に警告出血sentinel haedacheとも呼ばれる)を経験する

・身体的ストレスや精神的ストレスで出血が生じることもあるが、日常生活の中で発症することが多い

・関連する症状としては、悪心・嘔吐、羞明、項部硬直、神経巣症状、短時間の意識消失などがある

・より重篤な患者では、軽度の傾眠状態から重篤な昏睡状態まで意識状態の変化を伴う

発症時の脳症(意識障害)の程度が予後を規定する

診断

・頭部単純CTは、SAH診断の最初のステップ

発症後72時間以内では、感度は100%に近い

・その後、発症後5-7日になると感度は50%に低下する

CTが陰性だった場合で、SAHの疑いがまだ強い場合は追加の検査が必要になる

・腰椎穿刺は、髄液中の血液やキサントクロミーを検出するために使用されてきたが、SAHの有病率が低いことやSAHと腰椎穿刺に関連した外傷(trauma tap)の区別が困難であることから、頭部CTが陰性だった後の腰椎穿刺の意義は議論されている

・頭部MRIは髄液中のヘムに対してさらに感度が高い

・頭部造影CTでは、2mm程度までの動脈瘤の特定が可能だが、微小動脈瘤や血栓で閉鎖した動脈瘤の特定はできない

・血管造影(DSA)は、動脈瘤の診断と治療のための解剖を明らかにするスタンダードの検査

AHA/ASA guidelines 2023

・急性発症の重度の頭痛で、発症から6時間以上経過している場合、または、新規の神経脱落症状がある患者では、頭部単純CTが陰性だった場合、SAHの診断/除外のために腰椎穿刺を行うべき

・急性発症の重度の頭痛で、発症から6時間以内の場合、高感度の頭部単純CTを撮影し、認定神経画像専門医が読影することはSAHの診断/除外に妥当である

・新規の神経欠落症状を伴わない急性発症の重度の頭痛患者では、Ottawa SAH ruleを使用することはaSAHの高リスク患者を特定するのに妥当な手段

・非外傷性SAHで動脈瘤性が疑われるがCTAで動脈瘤を認めない、特定できない場合に血管造影(DSA)の適応となる

Ottawa SAH rule

神経症状を伴わない1時間以内に最大強度に達する非外傷性頭痛に対して、以下のいずれかが該当

(感度 100%、特異度15%)

・年齢≧40歳

・頚部痛やこわばり

・項部硬直

・意識消失が目撃されている

・運動中の発症

・雷鳴頭痛(即座にピークに達する頭痛)

SAHの重症度分類

Hunt and Hess分類the World Federation of Neurosurgical Societies(WFNS)分類が最もよく用いられる

・いずれの分類においても脳症の程度は重症度の主要な決定因子となる

Hunt-Hess分類

Grade Ⅰ:無症状か、最小限の頭痛および軽度の項部硬直

Grade Ⅱ:中等度から強度の頭痛、項部硬直をみるが、脳神経麻痺以外の神経学的失調はみられない

Grade Ⅲ:傾眠状態、錯乱状態、または軽度の巣症状を示す

Grade Ⅳ:混迷状態で、中等度から重篤な片麻痺があり、早期除脳硬直および自律神経障害を伴うこともある

Grade Ⅴ:深昏睡状態で除脳硬直を示し、瀕死の様相

※原著での死亡率 Ⅰ:11%、Ⅱ:26%、Ⅲ:37%、Ⅳ:71%、Ⅴ:100%

WFNS分類

Grade Ⅰ:GCS 15、主要な局所神経症状なし

Grade Ⅱ:GCS 13-14、主要な局所神経症状なし

Grade Ⅲ:GCS 13-14、主要な局所神経症状あり(失語 or 片麻痺)

Grade Ⅳ:GCS 7-12、主要な局所神経症状は問わない

Grade Ⅴ:GCS 3-6、主要な局所神経症状は問わない

※原著でのPoor outcome(mRS 4-6)Ⅰ:14.8%、Ⅱ:29.4%、Ⅲ:52.6%、Ⅳ:58.3%、Ⅴ:92.7%

再破裂予防

動脈瘤の再破裂は、単回の破裂よりも死亡と神経損傷のリスクが遥かに高い

・再発リスクは、発症後24時間以内で4-14%であり、動脈瘤が治療されない場合は30日間はリスクが上昇したままとなる

AHA/ASA guidelines 2023

・aSAHで動脈瘤が塞栓されていない状況では、重度の低血圧・高血圧と血圧変動を避けるために頻回な血圧モニタリングと短時間作用薬での血圧調整が推奨される

・抗凝固薬を投与されているaSAH患者は、出血を予防するために適切な抗凝固薬の拮抗を行うべき

・来院後、可能な限り速やかに(24時間以内が好ましい)破裂動脈瘤に対する治療を行うことが望ましい

・再出血や再治療のリスクを減らすために破裂動脈瘤を完全閉塞させる必要がある

up to date

急性期の降圧目標は定まっていない

SBP<160 mmHg or MAP<110 mmHgを使用することが多い

・一方で、脳灌流圧(CPP)低下から脳梗塞リスクが上昇するため、低血圧も避けるべき

・適切な降圧薬も定まっていないが、硝酸薬は脳血流を増加する(ICP上昇につながる)可能性があり避けるべき

破裂動脈瘤に対する治療

・治療は、開頭術(クリッピング術)血管内治療(コイル塞栓術)で行う

・開頭術と血管内治療を比較した2つの試験(ISATとBRAT)がある

・いずれの試験においてもクリッピング術の方が閉塞率と耐久性が高かったが、1年後の機能的転機は血管内治療の方が良好だった

・これらの結果から、血管内治療が積極的に行われるようになった

以下の患者ではクリッピング術が望ましい

 脳内血腫により頭蓋内圧が上昇している、もしくは神経巣症状を伴う場合

 血管造影で動脈瘤を視覚化するのが難しい場合

 バイパス術により血行再建術が必要になると判断される場合

 前方循環系のSAHで40歳以下の良好な神経学的状態の患者(耐久性と再出血リスクが低いため)

AHA/ASA guidelines 2023

・コイル塞栓術が可能な後方循環系aSAHでは、クリッピング術よりもコイル塞栓術が優先される

・救命可能と判断されるaSAHで、大きな脳実質内血腫のために意識障害を来している場合は、死亡率を低下させるために緊急血腫除去術を行うべき

・70歳以上のaSAHでは、コイル塞栓術とクリッピング術の優劣は不明

・40歳未満のaSAHでは、治療の持続性と転帰を改善させることからクリッピング術の方が望ましい

・前方循環系の重症度の低いaSAHで、コイル塞栓術と開頭クリッピング術のいずれも適している患者では、1年後の機能的予後を改善させるためコイル塞栓術を優先することを推奨する

N Engl J Med. 2017;377:257-266.(PMID: 28723321)

血管攣縮と遅発性脳虚血(DCI:Delayed cerebral ischemia

・血管造影で特定できる血管攣縮はSAH後の70%で生じる

・通常は、動脈瘤破裂後の3-4日後に始まり、7-10日でピークに達し、14-21日で改善する

遅発性脳虚血(DCI)は、動脈瘤破裂後4-14日後に1/3の患者で生じる局所的神経脱落症状の臨床症候群であり、SAH発症後の死亡や後遺症の原因の1つ

・DCIは、血管造影で血管攣縮が起きている患者の半数以下で発症し、虚血は血管攣縮を起こしている領域で一貫して生じる訳では無い

・カルシウム拮抗薬のニモジピンは、血管攣縮の発生率や重症度は変えないが、SAH後のDCIリスクを下げ、神経学的予後を改善させることが知られている唯一の薬剤(ニモジピンは日本では未承認

・血管攣縮のリスクを下げる他の薬剤の試験においては、DCIの発症や予後の改善は見られなかった

・SAH発症から21日までは、すべての患者にニモジピンを経口投与することを推奨する

・RCTのCochrane reviewでは、ニモジピンがSAHの転機不良のリスクを1/3に減少させることを示した

正常な循環血液量(euvolemia)正常ヘモグロビン値の維持は、DCIのリスク低下と関連している

・予防的に高循環血液量(hypervolemia)に維持することやDCIの症状がない状態の攣縮した血管に対してバルーン血管形成術を行うことは推奨されない

AHA/ASA guidelines 2023

・DCIは依然として重大な合併症であり、SAHの転機を悪化させる

・経頭蓋ドプラー、CTA、perfusion CTなどの診断法は、訓練された専門家が行えば脳血管攣縮の特定やDCIの予想に有用

・神経診察に制限のある重症度の高いaSAHには、持続脳波モニタリングや侵襲的モニタリングも有用な可能性がある

・ニモジピンの経腸投与を早期に開始することは、DCIを予防し、SAH後の機能的転機を改善する

・ルーチンでのスタチン療法、マグネシウム静注療法は推奨されない

クラゾセンタン(ピヴラッツ)の登場

・脳卒中治療ガイドライン2021(2023改訂版)で、遅発性脳血管攣縮の予防薬としてファスジル、オザグレルナトリウムに加えてクラゾセンタンが追加された

・Lacet neurology 2011に掲載された海外でのRCTでは、aSAH発症後56時間以内にクラゾセンタン5mg/h(最大14日まで投与)とプラセボを比較し、6週間での複合エンドポイント(全死亡、spasmによる脳梗塞・神経脱落症状、レスキュー治療)に差はなかった

・JNS 2022に掲載された日本人を対象としたRCTでは、aSAH発症後48時間以内にクラゾセンタン10mg/h(最大15日まで投与)とプラセボを比較し、6週間でのspasm関連合併症(脳梗塞、神経脱落症状)と全死亡を50%以上減らした(NNT 5.2)

・有効性の内容としては主にspasm関連合併症の減少によるもの

・クラゾセンタンはエンドセリン受容体(ETA受容体)拮抗薬であり、体液貯留作用がある

・有害事象としては肺水腫、胸水貯留などの呼吸器合併症や貧血が主となる

・ただし、欧米のガイドラインでは記載なし

DCIに対する治療

・主要な脳動脈の攣縮によりDCIが発症した場合、内科的治療でも臨床的改善が見られない場合は脳血管形成術 and/or 選択的動脈内血管拡張療法が考慮される

AHA/ASA guidelines 2023

・症候性DCIの患者では、血圧を上昇させ、euvolemiaを維持することは、DCIの進行と重症度を軽減する上で有用である

・しかし、予防的な血行動態の改善とhypervolemiaは、医原性のリスクを抑えるために施行すべきではない

水頭症の治療

・水頭症の発症率は15-85%とされ、ほとんどの症例は臨床的には重要ではない

・水頭症が脳症の原因となる場合は、水頭症の管理には一般的に脳室ドレナージを行い、この処置により神経所見は改善する

・あるいは腰椎ドレナージは急性水頭症の治療に用いることができ、血管攣縮のリスクが減少する

・頭蓋内圧の上昇を引き起こす閉塞性水頭症や脳実質内血腫の存在は、腰椎ドレナージの禁忌となる

・慢性症候性水頭症は、急性水頭症を発症した1/3の症例で見られ、脳脊髄液を持続的に迂回させるために脳室腹膜シャント(VPシャント)で治療を行う

・水頭症は、SAH発症から数日〜数週間後発症することがあり、初期に良好な回復が見られたが状態が横ばい、もしくは悪化する患者には発症を疑う必要がある

AHA/ASA 2023

・急性症候性水頭症を合併したaSAHでは、神経学的転帰を改善させるために緊急で髄液ドレナージ(脳室ドレナージ/腰椎ドレナージ)を行うべき

・慢性症候性水頭症を合併したaSAHでは、神経学的転帰を改善させるために恒久的な髄液ドレナージ(VPシャント)が推奨される

その他の管理について

・euvolemiaで管理

・normothermiaで管理

・低血糖や著明な高血糖を避ける

・電解質バランスの管理

・適切な換気管理

・SAH後患者のDVTは比較的一般的であり、ルーチンでの予防が推奨される

・間欠的空気圧迫と破裂動脈瘤が治療されて24時間後から未分化ヘパリンでの予防を、患者が動けるようになるまで行う

・発作は、最大20%で発生し(特に実質内出血を伴う場合)、再破裂の原因となるような血行動態不安定を来たしうる

・予防的な発作予防の効果は示されておらず、抗けいれん薬の予防的投与は推奨されていない

AHA/ASA guidelines 2023

・複数臓器における合併症は、SAH後の転機悪化と関連している

・機械換気の患者に対する標準的な集中治療室でのケアバンドルとDVT予防が推奨される

・綿密な血行動態モニタリングと血圧変動を最小化するための血圧管理は有益である

血管内容積をeuvolemiaで維持し、hypervolemiaに関連する合併症を避けることは全体的な転機を改善する

・aSAH後の新規発症発作に対しては、7日間の抗けいれん薬を行うことを推奨する(それ以上の治療は将来の発作を減らさないため推奨されない)

・中大脳動脈破裂、脳実質内血腫、重症度の高いSAH、水頭症、皮質梗塞などの発作の高リスク患者では予防的な抗けいれん薬の投与が考慮される

・フェニトインの使用は合併症増加と関連しており、避けるべき

連続脳波モニタリングは、特に意識障害や神経所見が変動する患者ではNSCEを検出できる

・解熱剤に抵抗性の発熱を伴うaSAHに対して、急性期の治療的体温管理(TTM)の有用性は不明

参考文献

N Engl J Med. 2017;377:257-266.(PMID: 28723321)

AHA/ASA ガイドライン2023:Stroke. 2023;54:e314-e370.(PMID: 37212182)

ESO ガイドライン2013:Cerebrovasc Dis. 2013;35(2):93-112.(PMID: 23406828)

脳卒中治療ガイドライン2021(2023改訂版)

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この記事を書いた人

総合内科から救急科に転科して修行中の中堅医師です。勉強した内容を共有していきますのでぜひご参考にしてください!実臨床での利用は自己責任でお願いします。

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