Take home message
・PSHは重症脳損傷後の重要な合併症で、適切な診断・治療が必要
・主に外傷性脳損傷(約80%)や低酸素性脳症(約10%)後に発症
・発作性に出現する頻脈、高血圧、発汗、体温上昇、筋緊張亢進などが特徴的
・薬物療法は複数の薬剤を組み合わせて使用することが多い
疾患概念
・発作性交感神経過活動(PSH)は、重症脳損傷後の生存した患者の一部に発症する特異な症候群
・1929年にPenfieldによって最初の症例が報告され、当初は「間脳てんかん」として記載された
・その後、様々な名称で報告されてきたが、2014年の国際専門家会議で現在の名称と診断基準が確立された
・PSHは外的刺激に対する交感神経系の過剰な反応が特徴で、患者のQOL低下や予後悪化に関連する重要な病態である
臨床症状
・主要な臨床症状として、発作性の頻脈、動脈性高血圧、頻呼吸、体温上昇、発汗、除脳姿勢様の姿勢異常が出現する
・これらの症状は、外部からの刺激に反応して発現することが特徴
・具体的には、日常的なケア行為(気管内吸引など)といった非侵害性の刺激に対しても、通常では見られないような過剰な自律神経反応を示す
・発作の持続時間は様々で、数週間から数ヶ月続く可能性がある
・その後、症候群は自然に消退することもありますが、多くの症例では筋緊張亢進や痙縮といった後遺症が残る
PSHの主要症状は以下の6項目:
- 頻脈(≧140回/分)
- 高血圧(収縮期血圧≧160mmHg)
- 頻呼吸(≧30回/分)
- 発熱(≧39.0℃)
- 発汗
- 筋緊張亢進(姿勢異常)
これらの症状は以下の特徴を持つ:
- 発作的に出現する
- 複数の症状が同時に出現する
- 非侵害性刺激でも誘発される
- 通常の生理的反応より強く、持続時間が長い
- 発症から数週間から数ヶ月持続する可能性がある
疫学
発症頻度は報告により異なるが、重症脳損傷後の約8-33%に発症するとされる。原因疾患の内訳としては:
- 外傷性脳損傷:約80%
- 低酸素性脳症:約10%
- 脳卒中:約5%
- その他(水頭症、脳腫瘍、低血糖、感染症など):約5%
病態生理
・脳損傷により、大脳皮質からの抑制性入力が障害され、脊髄レベルでの興奮性が亢進することで症状が出現すると考えられている
・特に中脳や橋の病変、びまん性軸索損傷との関連が指摘されている

診断
2014年に確立されたPSH Assessment Measure (PSH-AM)を用いて診断する。
【PSH Assessment Measure (PSH-AM)】
A. 臨床症状スケール(CFS : clinical feature scale)
評価項目 | 0点 | 1点 | 2点 | 3点 |
---|---|---|---|---|
心拍数(回/分) | <100 | 100-119 | 120-139 | ≧140 |
呼吸数(回/分) | <18 | 18-23 | 24-29 | ≧30 |
収縮期血圧(mmHg) | <140 | 140-159 | 160-179 | ≧180 |
体温(℃) | <37.0 | 37.0-37.9 | 38.0-38.9 | ≧39.0 |
発汗 | なし | 軽度 | 中等度 | 重度 |
姿勢異常 | なし | 軽度 | 中等度 | 重度 |
B. 診断可能性ツール(DLT : Diagnosis likelihood tool):以下の項目が存在する場合、各1点
- 先行する脳損傷の存在
- 症状が同時に出現
- 発作性の性質
- 非侵害刺激に対する交感神経の過剰反応
- 発作中の副交感神経症状の欠如
- 症状が3日以上持続
- 症状が脳損傷後2週間以上持続
- 1日2回以上の発作
- 他の推定される原因の不在
- 他の鑑別診断の治療後も症状が持続
- 交感神経症状を抑制する薬物投与の必要性
PSH-AM総合スコア = CFS + DLT による判定
- <8点:PSH unlikely(可能性低い)
- 8-16点:PSH possible(可能性あり)
- ≧17点:PSH probable(可能性高い)
治療
治療は以下の3つの柱で構成される:
- 予防的アプローチ
- 発作誘発因子の回避(不要な吸引刺激など)
- 適切な体位管理
- 環境整備
- 薬物療法
※薬物治療に関するRCTは施行されておらず、有効性は不明確
●オピオイド系鎮痛薬
・モルヒネ
用量:静注1-10mg、効果をみながら調整
注意点:呼吸抑制、耐性形成
・フェンタニル
用量:パッチ12-100μg/h
注意点:呼吸抑制、耐性
●β遮断薬
・プロプラノロール
用量:20-60mg、4-6時間ごと経口
特徴:非選択的β遮断薬、脂溶性で中枢移行性が良好
効果:頻脈、高血圧、発汗に有効
注意点:徐脈、低血圧
・ラベタロール
用量:100-200mg、12時間ごと経口
特徴:αβ両遮断作用を持つ
効果:高血圧に特に有効
●α2作動薬
・クロニジン
用量:100μg、8-12時間ごと経口、最大1200μg/日
特徴:中枢性・末梢性の交感神経抑制
効果:血圧、心拍数の安定化
注意点:低血圧、鎮静
・デクスメデトミジン
用量:0.2-0.7μg/kg/時の持続静注
特徴:ICUでの使用に適している
注意点:長期使用は避ける
●神経調節薬
・ガバペンチン
用量:100mg、8時間ごと経口、最大4800mg/日
特徴:カルシウムチャネル阻害作用
効果:痙縮、アロディニアに有効
副作用が少なく忍容性が高い
・バクロフェン
経口:5mg、8時間ごと、最大80mg/日
髄注:専門医による管理が必要
効果:痙縮、ジストニアに有効
注意点:鎮静、離脱症候群
●その他の薬剤
・ベンゾジアゼピン系(ジアゼパム、ミダゾラムなど)
発作時の補助的使用
注意点:呼吸抑制
・ダントロレン
用量:0.5-2mg/kg静注、6-12時間ごと
特徴:筋弛緩作用
注意点:肝毒性
- 支持療法
- 適切な栄養管理(安静時エネルギー消費量は正常の3倍まで上昇)
- 理学療法(拘縮予防)
- 体温管理
- 異所性骨化の予防と早期発見
予後
PSHは以下の項目と関連することが報告されている:
- 短期的影響
- 入院期間の延長
- 人工呼吸期間の延長
- 感染症リスクの上昇
- 長期的影響
- 機能予後の悪化
- リハビリテーション期間の延長
- QOLの低下
- 合併症
- 異所性骨化(相対リスク59.6倍)
- 栄養障害(体重減少は25-29%に及ぶことがある)
- 遷延性の自律神経反応異常
参考文献
Lancet Neurol. 2017 Sep;16(9):721-729. PMID: 28816118.
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