Take home message
- 敗血症(特に敗血症性ショック)では、誰しもSCMを合併する可能性があり、反復して心エコーで評価する
- 定まった診断基準はないが、古典的にはびまん性の左室壁運動低下、左室拡張を特徴とする
- 敗血症患者の左室機能低下を見た際は、SCMと決めつけず、他の心疾患(特にACS)を除外する
- 治療は、敗血症に準じた治療が基本で、SCMに伴う心原性ショックの状態ではドブタミンや機械的循環補助の使用を検討する
はじめに
敗血症性心筋症(SCM)は、敗血症に合併する左室収縮能低下を特徴とする心筋症ですが明確な診断基準が定まっておらず、定義が曖昧な疾患です。
SCMが報告された当初は、左室駆出率低下(LVEF低下)と左室拡大が特徴とされていました。
現在では、左室収縮不全/左室拡張不全、右室収縮不全/拡張不全の様々な組み合わせで発症すると考えられています。
SCM報告当初の臨床的特徴
①左室の拡張
②左室収縮能の低下
③通常7〜10日で改善する可逆的な心筋障害
疫学
過去の報告では、
・24時間の心エコーで22%に左室機能不全を認め、25-72時間でさらに9.8%で左室機能不全を認めた
・6時間以内に18%で左室機能不全を認め、72時間以内には60%に左室機能不全を認めた
心エコーを行うタイミングや蘇生治療(前負荷・後負荷を補正など)の前後で所見は異なるため、反復して心エコーを行うことが重要とされています。
一般的に報告されているSCMのリスクは、男性、若年患者、入院時の高乳酸血症、心不全の既往のようです。
敗血症としては、血管収縮薬を必要とする敗血症(敗血症性ショック)で認めやすいようです。
臨床症状
非特異的ですが、これらの所見があると疑うきっかけになるようです。
・末梢冷感を伴う敗血症
・前負荷投与に反応しないショック
・不整脈の合併
・血管収縮薬の使用でも循環動態不安定
診断
敗血症(特に血管収縮薬を必要とする敗血症性ショック)では、すべての患者でSCMを考慮しておく必要があります。
しかし、定義も曖昧なため、コンセンサスの得られた診断基準がない状況です。
診断のゴールドスタンダードは心エコーで、代表的な所見はLVEFの低下ですが、それ以外にも以下のような所見があります。
LVEFは、前負荷・後負荷の影響を大きく受けるため、輸液や血管収縮薬で補正を行ってから再評価する必要があります。
左室収縮能のより感度の高い所見としてGlobal longitudinal strain(GLS)が注目されているようです。
トロポニン、BNPなどのバイオマーカーは、非特異的で診断には役に立たないようです。
敗血症(特に血管収縮薬を必要とする敗血症性ショック)では、すべての患者でSCMを考慮しておく必要がある。
治療
SCMに特異的な治療で定まったものはありません。
基本的には敗血症に準じた治療に加えて、SCMによる心原性ショックを合併するような場合は、ドブタミン、機械的循環補助(ECMO、IABP、Impellaなど)を検討するということになります。
敗血症性ショックにおけるドブタミンの使用は、死亡率が上がる可能性も示唆されているため使用は必要があるときに限られます。
現在、以下の研究が走っているようです。
・左室機能不全を伴う敗血症患者に対するドブタミン vs プラセボのRCT(ADAPT study)
・敗血症性ショックに対するイバブラジン vs プラセボのRCT(IRISS)
たこつぼ型心筋症と違うのか?
敗血症は、SCMも合併しますが「たこつぼ型心筋症」の原因にもなります。
一応、異なる病態と考えられているようです。
典型的なたこつぼ型心筋症は、心体部〜心尖部の収縮能低下と心基部の過収縮という特徴的な壁運動異常を示します。(SCMの壁運動低下はびまん性の収縮能低下)
また、たこつぼ型心筋症は数週以内で正常に戻るとされています。(SCMはもう少し早い可能性がある)
私見
鑑別困難なことも多いと思われますが、この2つの疾患を区別することはさほど重要ではなく(治療方針が変わらないため)、他の心疾患(特にACS)の発症を除外する方が重要と思われます。
参考文献
J Intensive Med. 2021;2:8-16.(PMID: 36789232)
J Intensive Care. 2015;3:48.(PMID: 26566443)
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