※本記事は主に中等症以上の頭部外傷のマネジメントを対象にしています
Take home message
・重症度はGCSで評価
・初期対応はJATECに準じて対応し、二次性脳損傷を防ぐことを意識した対応を行う
・切迫脳ヘルニアの徴候があれば、緊急手術を検討する
・集中治療は、一般的な全身管理に加えてICPのマネジメントも行う
各ガイドラインの推奨度
BTF guidelines 4th(米国のガイドライン) 推奨レベル レベル Ⅰ:高品質のエビデンスに基づく レベル ⅡA:中品質のエビデンスに基づく レベル ⅡB,Ⅲ:低品質のエビデンスに基づく
頭部外傷ガイドライン 第4版(日本のガイドライン) 推奨グレード グレードA:行うように勧められる グレードB:行うことを考慮してもよい グレードC:行うことは勧められない
頭部外傷の重症度(up to dateより)
頭部外傷の重症度の定義
severe TBI:GCS ≦ 8
moderate TBI:GCS 9 ~ 12
mild TBI:GCS 13 ~ 15
初期対応(ICM Review 2022より)
外傷患者の一般的な初期対応についてはJATECなどに準じて対応する(JATECの内容については省略)
二次性脳損傷を防ぐために以下の初期蘇生が提案されている
・MAP>80mmHg、SBP>100-110mmHg
・SpO2>90%
・EtCO2 30-35mmHg
・Hb>7 mg/dL
・抗凝固療法使用患者であれば速やかな拮抗
・トラネキサム酸(1g 10分➔1g 8時間)の投与(特に受傷後3時間以内のmild – moderate TBI:GCS 9-15)
切迫脳ヘルニアの認識と対応(頭部外傷ガイドライン 第4版より)
・最初に気道確保、呼吸、循環を評価し、正常化を最優先に行うことが勧められる(グレードA)
・以下の場合には、切迫脳ヘルニアを疑うことが勧められる(グレードA)
①GCS≦8、GCSで2以上の急速な悪化、脳ヘルニア徴候(瞳孔不同、片麻痺、徐脈、高血圧)を含む意識障害のいずれかを認める
②頭部CTで、大きな占拠性病変、5mm以上の正中偏位、脳底槽の圧迫もしくは消失を認める
・占拠性病変による切迫脳ヘルニアに対しては即座に緊急手術を行う(グレードA)
・占拠性病変に対する手術前の切迫脳ヘルニアへの対処として、マンニトール 0.25-1.0g/kgの急速点滴静注が勧められる(グレードA)
・マンニトールを使用する際は循環血漿量の減少に留意しながら使用することが勧められる(グレードA)
・以下の場合には、救急初療室または集中治療室において緊急穿頭術ないし小開頭術を行うことを考慮してもよい(グレードB)
①通常の開頭術を行う時間的余裕がないと判断される場合
②合併損傷などで移動することが不可能と判断される場合
比較的重症な頭部外傷の患者では、まずは緊急手術が必要かどうかを判断する必要があります。
切迫脳ヘルニアの所見があれば緊急性が高いと判断されます。
一概に決めることはできないので脳外科の医師と手術適応について協議して決めましょう。
頭蓋内圧(ICP)モニタリングの適応(BTF guidelines 4thより)
BTF レベルⅡB
・重症TBIのICPモニタリングの情報を使用した管理は、院内死亡・受傷後2週間の死亡を減らすために推奨される
・重症TBI(蘇生後のGCS 3-8)で頭部CTで異常(血腫、挫傷、腫脹、ヘルニア、脳底槽の圧排)のある救命可能な患者に対してICPモニタリングを使用すべき
・重症頭部外傷で頭部CTが正常な患者では、入院時に以下の2つ以上当てはまるとICPモニタリングの適応となる
①>40歳 ②片側性・両側性の異常肢位 ③SBP<90mmHg
比較的重症な頭部外傷患者においては、二次性脳損傷の予防のために一般的な全身管理に加えて頭蓋内圧(ICP)が上がり過ぎないようにする特有な管理が必要になります(後述)。ICPモニタリングのためには頭蓋内にデバイスを挿入する必要がありますが、その適応についてです(こちらもあくまで参考なので、脳外科の医師と協議して決めましょう)。
各数値の治療閾値(BTF guidelines 4thより)
BTF レベルⅢ
死亡率・転機の改善のために以下での管理が考慮される
50-69歳:SBP>100mmHg
15-49歳、>70歳:SBP>110mmHg
BTF レベルⅡB
・ICP>22mmHgは治療を推奨する(死亡率増加と関連しているため)
BTF レベルⅢ
・ICP値と臨床所見、頭部CT所見を組み合わせてマネジメントを決定する
BTF レベルⅡB
・生存と良好な転機のために推奨されるCPP値は、60-70mmHg
・60mmHgと70mmHgのどちらが最小のCPP値の適正閾値なのかは不明であり、患者の自動調整能の状態にもよる
BTF レベルⅢ
・CPP>70mmHgを維持するために輸液や昇圧薬を積極的に使用することは、呼吸不全のリスクとなるため避ける
CPP(脳灌流圧) = MAP(平均血圧) ー ICP(頭蓋内圧)
という式があるため、CPPを維持するためにはICPを下げるか、血圧を上げる(MAP)かのいずれかになります。
頭蓋内圧(ICP)のマネジメント(頭部外傷ガイドライン 第4版)
ICPが15-22mmHg以下で推移している場合
①鎮静・鎮痛・頭蓋内圧管理目的にプロポフォールの使用が勧められる(グレードB)
②呼吸管理:必要に応じて気管挿管を施行し、補助換気を行うことが勧められる
長時間にわたってPaCO2≦25mmHにする予防的換気は勧められない(グレードB)
一過性にICP低下を企図した過換気は勧められるが、受傷24時間以内で著明なCBF低下がみられる場合には避けるべき
③循環管理:50-69歳でSBP≧100mmHg、15-49歳と70歳以上でSBP≧110mmHgを維持することが勧められる(グレードB)
④頭部挙上:30度の頭部挙上が勧められる(グレードB)
頸部屈曲による静脈灌流が妨げなれないように留意する
30度を超える頭位挙上は脳灌流圧が低下するため勧められない(グレードB)
⑤高浸透圧利尿薬:マンニトール、あるいはグリセオールの静脈内投与(0.25-1.0g/kg)が勧められる(グレードB)
その際、SBP≦90mmHに低下しないように留意すべきである
⑥ステロイド剤の使用は勧められない(グレードB)
ICPが22mmHg以上で推移している場合
①〜⑥を施行してもICP管理が難しい場合には、頭部CTの再検を行い、必要があれば次の段階へ進むことを考慮する
・髄液ドレナージ(グレードB)
・バルビツール系薬剤の投与(グレードB)
・低体温療法(グレードB)
・脳外科的治療(外減圧術または内減圧術)(グレードB)
各治療の推奨(BTF guidelines 4th)
減圧頭蓋骨切除術(DC:Decompressive craniectomy)
BTF レベル ⅡA
・両側前頭骨DCは、びまん性損傷(占拠性病変のない)があり、ICPが1時間以内に15分以上>20mmHgに上昇し、初期治療に抵抗性を示す重症TBIに対して、重症後6ヶ月のGOS-Eスコアを改善するためには推奨されない
・しかし、この治療はICPを低下させ、ICU滞在日数を減らすことが実証されている
・重症TBIの死亡率低下と神経学的予後改善のために、小さいサイズよりも大きいサイズの前頭側頭頭頂DC(12×15cm以上または直径15cm以上)が推奨される
BTF 2020 update レベル ⅡA
・死亡率改善と良好な転機のために、晩期の難治性ICP上昇に対して二次DCを推奨する
※RESCUEic trial:入院後10日以内の2段階目の治療にも関わらずICP>25mmHgで1-12時間経過した症例を対照
・死亡率改善と良好な転機のために、早期の難治性ICP上昇に対して二次DCを推奨しない
※DECRA trial:72時間以内に初期治療を行ったのにも関わらず、1時間以上15分間を超えるICP>20mmHgとなった症例を対象
予防的低体温療法
BTF レベルⅡB
・びまん性損傷の患者の予後改善のために、早期(2.5時間以内)、短期間(受傷後48時間)の予防的低体温療法は推奨されない
頭部外傷ガイドライン第4版より
低体温療法(脳低温療法)
・若年者の血腫除去可能な患者に対して低体温療法を考慮してもよい(グレードB)
・びまん性脳損傷に対して低体温療法は勧められない(グレードC)
・受傷後できるだけ早期に導入し、6時間以内の目標温度達成が勧められる
・目標温度は定まっていない(積極的平温療法:目標35-37℃や低体温療法:目標32-34℃など)
・低体温療法の維持期間は48-72時間、あるいは正常頭蓋内圧に至るまで
・復温速度が早いと転機不良だが、推奨される復温速度は定まっていない(欧米では0.25℃/h未満、本邦では0.5-1.0℃/日が多い)
・頭蓋内圧が再上昇すれば一時期に復温を中断する
・低体温療法で発生頻度が増加する合併症としては、感染症、不整脈、低K血症、血小板減少、凝固異常、高血糖など
高浸透圧療法
・マンニトール(0.25-1.0 g/kg)は、上昇したICPをコントロールするのに有用
・血圧低下(SBP<90mmHg)では使用を避けるべき
・ICPモニタリングの前にマンニトールを使用するのは、脳ヘルニア徴候がある患者、または、頭蓋外の原因に起因しない神経所見の悪化のある患者に限定する
頭部外傷ガイドライン第4版より
※グリセオール
反跳現象がマンニトールに比較して少ないとされる
本邦では多く使用されているが、欧米では検証されたことがほとんどなく、欧米のガイドライン上の記載もない
科学的根拠はない
※高張食塩水
高張食塩水の急速投与は、頭蓋内亢進時に、そのコントロールに有効な報告があるため考慮してもよい(グレードB)
鎮静・鎮痛
BTF レベル ⅡB
・頭蓋内圧亢進の予防として、脳波測定によるバーストサプレッションを誘発するためのバルビツール系薬剤の投与は推奨されない
・バルビツール系薬剤の大量投与は、最大限の標準的内科治療/外科治療を行っても治療抵抗性のICP上昇に対して使用が推奨される
・バルビツール系薬剤の投与前、投与中には循環動態の安定化が不可欠
・プロポフォールはICPのコントロールには推奨されるが、死亡率や6ヶ月後の予後改善の目的には推奨されない
・高用量のプロポフォールは、重大な有害事象を来すため注意が必要
バルビツール系薬剤の投与方法
ペントバルビタール 2-5mg/kg bolus ➔ 0.5-3 mg/kg/h
チオペンタール 2-10mg/kg bolus ➔ 1-6 mg/kg/h
頭部外傷ガイドライン 第4版より
筋弛緩薬について
・筋弛緩薬自体はICPに影響を与えないが、シバリング、体位、人工呼吸器非同調などによる胸腔内圧上昇、脳静脈還流低下およびICP上昇を軽減させるので、鎮静管理下では適切に筋弛緩薬を使用することが勧められる(グレードA)
栄養
BTF レベルⅡA
・死亡率改善のため、受傷後5−7日目までに基礎的なカロリー補充ができるように栄養投与を行うことが推奨される
BTF レベルⅡB
・VAPの発生率を減らすために経胃空腸栄養が推奨される
DVT予防
BTF レベルⅢ
・低分子ヘパリンまたは低用量未分化ヘパリンを機械的予防と併用してもよい
・しかし、頭蓋内出血の増大のリスクは増える
・脳損傷が安定しており、頭蓋内出血増大のリスクを上回る有益性があると考えられる場合は、圧迫ストッキングに加えて薬理学的予防も考慮される
・DVT予防に対する薬理学的予防の望ましい薬、用量、時期に関して支持する証拠は不十分
痙攣予防
BTF レベルⅡA
・後期外傷後発作の予防のためのフェニトインやバルプロ酸の使用は推奨されない
・フェニトインは、早期外傷後発作(受傷後7日以内)の発作率を低下させるために使用が推奨されれている
(頭部外傷ガイドライン 第4版ではレベチラセタムも推奨されている)
・全体的な有益性がフェニトインの使用による有害事象よりも上回っていると考えられる
・しかし、早期外傷後発作は予後の悪化と関連はしていない
・現時点では、レベチラセタムとフェニトインを比較していずれかを推奨するには、外傷後早期発作の予防と毒性に関するエビデンスが不十分
外傷性けいれん発作(PTS:posttraumatic seizures)
①直後発作(immediate seizures):受傷後24時間以内の発生
②早期発作(early seizures):受傷後7日以内の発生
③晩期発作(late seizures):受傷後8日以降の発生 ※再発する場合を外傷後てんかん(PTE:posttraumatic epilepsy)と呼ぶ
参考文献
BTF guidelines 4th:Neurosurgery. 2017;80:6-15.(PMID: 27654000)
BTF guidelines 2020 update:Neurosurgery. 2020;87:427-434.(PMID:32761068)
頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版
Intensive Care Med. 2022; 48: 649-666.(PMID: 35595999)
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治療の仕方については施設間でばらつきがありそうなので、それぞれの施設の治療の仕方を知りたいです。治療を標準化するためにプロトコール化するのが本当はよいのでしょう。