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抗NMDA受容体脳炎(免疫介在性脳炎)

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自己免疫性脳炎の代表疾患で、若年女性に好発する

精神症状で発症し、その後に多彩な神経症状が出現する

髄液中の抗NMDA受容体抗体が確定診断に必須である

早期の免疫療法開始が重要で、80%が改善する

・NEOSスコアによる予後予測が可能である

目次

病態生理と臨床症状

【疾患概念と疫学】
抗NMDA受容体脳炎は、2007年に初めて報告された自己免疫性脳炎である。NMDA受容体のGluN1サブユニットに対するIgG自己抗体により引き起こされ、特徴的な臨床症候群を呈する。発症頻度は人口100万人あたり年間1.5例であり、従来考えられていた以上に高頻度で発症する重要な疾患である。性別・年齢分布では、若年女性に好発し(女性:男性=8:2)、発症年齢の中央値は21歳である。18歳未満の小児例が37%を占めることも特徴的である。特に若年者では、抗NMDA受容体脳炎の頻度が個々のウイルス性脳炎を上回るという驚くべきデータも報告されている。

【関連する病態】

以下の2つが本症の重要な誘因として知られている

  • 卵巣奇形腫:若年女性での合併に注意
  • 単純ヘルペス脳炎:脳炎後2-16週で発症することがある

【臨床経過と症候学】
本疾患は、特徴的な段階的進行を示す。

第1期(前駆期)には、発熱、頭痛などのウイルス感染様症状が出現する。

第2期(精神症状期)では、統合失調症様の精神症状が急速に進行する。約90%の症例で精神症状が初発症状となり、幻覚、妄想、興奮、不安、不眠などが認められる。

第3期(意識障害期)には、けいれん発作(約70%)、特徴的な口顔面ジスキネジアなどの不随意運動、自律神経症状(頻脈、不整脈、体温変動)が出現し、重症例では人工呼吸管理を要する意識障害を呈する。

第4期(回復期)は数か月から年単位におよび、緩徐な改善を示す。

抗NMDA受容体脳炎の進展パターン( Lancet Neurol. 2019 Nov;18(11):1045-1057.)




診断

【診断アプローチ】
診断の確定には、髄液中の抗NMDA受容体抗体(GluN1サブユニットに対するIgG抗体)の検出が必須である。血清のみでの検査は偽陽性・偽陰性の可能性があり推奨されない。補助診断として、髄液検査では約80%で細胞増多を認め、EEGでは特徴的な”extreme delta brush”パターンが観察される。MRIは30%程度でのみ異常所見を呈し、その所見も非特異的である。

抗NMDA受容体脳炎の診断基準

確実例:

  1. 以下の主要症状群のいずれか1つ以上があり、かつ髄液中にIgG GluN1抗体が陽性
  2. 最近の単純ヘルペス脳炎や日本脳炎の既往がないこと

疑い例:

  1. 3ヶ月未満の急性発症で、以下の6つの主要症状群のうち4つ以上:
    • 異常な精神症状または認知機能障害
    • 言語障害(圧言、言語減少、無言)
    • けいれん発作
    • 運動障害(ジスキネジア、固縮、異常姿勢)
    • 意識レベルの低下
    • 自律神経障害または中枢性低換気
  2. かつ以下のいずれかを満たす:
    • 異常脳波(局所性/びまん性徐波、てんかん性放電、extreme delta brush)
    • 髄液細胞増多または髄液オリゴクローナルバンド陽性

または

  1. 上記主要症状群の3つと全身性奇形腫の存在
  2. 最近の単純ヘルペス脳炎や日本脳炎の既往がないこと

注:髄液検査が推奨される。血清のみの場合は確認検査が必要。

Extreme delta brush (Neurohospitalist. 2017 Jul;7(3):NP3-NP4.)

治療と管理

【治療戦略】
治療は、免疫療法の段階的アプローチが推奨される。第一選択療法として、以下のいずれか、あるいは併用療法を行う。
・ステロイドパルス療法
・免疫グロブリン大量療法
・血漿交換療法

第一選択療法開始後4週間で改善が不十分な場合は、第二選択療法へ移行する。
・リツキシマブ
・シクロホスファミド

難治例に対する第三選択治療:

  • ボルテゾミブ
  • トシリズマブ

【集中治療管理】
重症例では、以下の管理が重要となる。
・自律神経症状(頻脈、不整脈、体温変動)の管理
・けいれん発作のコントロール
・人工呼吸管理
・不随意運動による自傷予防

【てんかん発作の管理】

  • 発作型:強直間代発作(79%)、焦点発作(74%)
  • 約35%が痙攣重積状態を呈する
  • バルプロ酸、レベチラセタム、カルバマゼピンが有効
  • 多くは回復期に発作が消失する

【腫瘍の検索と治療】
若年女性例では、卵巣奇形腫の合併に特に注意が必要である。腫瘍が認められた場合、その摘出により劇的な改善を示すことがある。定期的な腫瘍スクリーニングも重要である。

予後

【予後と長期フォローアップ】
適切な治療により、約80%の症例で改善が期待できる。早期の治療開始と集中治療の回避が、良好な予後因子として同定されている。しかし、回復には長期間を要し、記憶障害や遂行機能障害などの高次脳機能障害が残存する例も存在する。再発は約12%(多くは2年以内)に認められる。

【予後予測:NEOSスコア】

以下の5項目(各1点)で評価:

  1. ICU入室
  2. 治療開始の4週間以上の遅れ
  3. 治療開始4週間以内の改善なし
  4. MRI異常
  5. 髄液中白血球数>20/μL

0-1点で3%、4-5点で69%が機能予後不良となる。

参考文献

  1. Dalmau J, Armangué T, Planagumà J, Radosevic M, Mannara F, Leypoldt F, Geis C, Lancaster E, Titulaer MJ, Rosenfeld MR, Graus F. An update on anti-NMDA receptor encephalitis for neurologists and psychiatrists: mechanisms and models. Lancet Neurol. 2019 Nov;18(11):1045-1057. doi: 10.1016/S1474-4422(19)30244-3. Epub 2019 Jul 17. PMID: 31326280.
  2. Castellano J, Glover R, Robinson J. Extreme Delta Brush in NMDA Receptor Encephalitis. Neurohospitalist. 2017 Jul;7(3):NP3-NP4. doi: 10.1177/1941874416673191. Epub 2016 Oct 14. PMID: 28634511; PMCID: PMC5467816.
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この記事を書いた人

総合内科から救急科に転科して修行中の中堅医師です。勉強した内容を共有していきますのでぜひご参考にしてください!実臨床での利用は自己責任でお願いします。

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