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・気管挿管は、抜管後喉頭浮腫を引き起こす可能性があり、抜管後の呼吸不全や再挿管の原因となる
・抜管後喉頭浮腫のリスクとしては、女性、長期間の気管挿管、太い気管チューブ、高いカフ圧、挿管困難などがある
・抜管後喉頭浮腫のリスクが高い患者に対しては、抜管前にカフリークテストを検討する
・カフリークテスト陽性の患者に対しては、抜管前のステロイド全身投与を検討する
・抜管後に喉頭浮腫を認めた場合の治療は、定まったものはなく、ステロイド全身投与やアドレナリン吸入などが提案されているが、呼吸不全を来した場合には速やかに再挿管を行う
総論
・気管挿管は、しばしば喉頭浮腫を引き起こし、抜管後の喘鳴や呼吸困難の原因となる
・抜管後喉頭浮腫(PLE:postextubation laryngeal edema)は呼吸不全を引き起こし、最終的に再挿管が必要になることがある
・PLEの重要な臨床所見として抜管後喘鳴(PES:postextubation stridor)があり、呼吸困難とPESの存在は気道内腔の50%以上の狭窄を反映していると考えられている
PLE/PESの発症率
・PLEの発生率は5.0~54.4%、PESの発生率は1.5~26.3%と報告によってばらつきがある
・PLE and/or PESによる再挿管は1.1~10.5%に発生するとされる
(up to dateではPESの発生率は重症患者の10%未満で発生するとされている)
声帯麻痺について
・気管挿管後の患者で、PLE/PES同様に抜管後に呼吸不全を来す原因として声帯麻痺がある
・長期挿管患者のまれな合併症とされており、挿管患者の1%未満に発症する
・機序としては、声門下喉頭で反回神経前枝がカフと甲状軟骨の間で圧迫されて発症する(神経原性声帯麻痺)、もしくは、力強い挿管などによる披裂軟骨脱臼により発症する
・声帯麻痺が生じると開くことができず、声帯は閉じた状態となる
・片側性の場合と両側性の場合がある
・両側性の場合は再挿管が必要になる可能性が高く、多くは長期管理のために気管切開を考慮する
・自然に改善する場合もあるが、6~12ヶ月で改善がなければ回復する可能性が低い
・診断および喉頭浮腫との鑑別は喉頭鏡などによる直視によって行う(その後の治療などに影響するため鑑別は重要)
PLE/PESのリスク
・女性
・長期間の気管挿管(36時間〜6日以上)
・太い気管チューブの使用(内径が男性:≧8mm、女性:≧7mm)
・高いカフ圧
・挿管困難
他、高齢者(80歳以上)、外傷患者、喘息既往、チューブの不十分な固定、不十分な鎮静、誤嚥などが挙げられている(up to dateより)
カフリークテスト(CLT)
・カフリークボリューム(CLV)= (カフを膨らませた状態での一回換気量)ー(カフを虚脱させた状態での一回換気量)
・CLVが十分高ければ、カフ周囲のスペースがある(喉頭浮腫のリスクが低い)と判断、CLVが低ければ、カフ周囲のスペースが少ない(喉頭浮腫のリスクが高い)と判断
・これらの一連のテストをCLTという
CLTの実際
①呼吸器設定をAssist/Controlにする
②カフを膨らませた状態での一回換気量を記録する
③カフのエアを抜いて6サイクルの呼吸で最も低い3回の一回換気量の平均値を記録する
④それらの差を出してCLVを算出する
⑤CLV <110mL もしくは <24%でCLT陽性、CLV≧110mL or ≧24%でCLT陰性
※カフを抜いて口からリーク音が聞こえるかどうかも参考にする
検査特性について
・CLT陽性は、PESに対して感度 15~85%、特異度70~99%と幅がある
・特異度は比較的高いが、感度は低めの研究が多い
➔ CLT陽性の場合にはPLE/PESの可能性が高いが、CTL陰性だからといってPLE/PESを否定できるものではない(スクリーニングとしてはいまいち)
CLTの注意点
・カフのエアを抜くときには口腔内やカフ上の分泌物が気管内に垂れ込んでしまうため、よく吸引しておくことが重要です
・咳嗽反射が強いと、カフのエアを抜くと咳嗽が強くてCLVがうまく測定できないということもよくあります
CLTを行う対象患者について
・基本的にはPLE/PESの高リスク患者に対して施行すべきと思われます(抜管前にルーチンで行うべきではない)
・低リスク患者に対する予防的ステロイド全身投与が有効かどうかはわからない上に、挿管期間が伸びる、必要のないステロイドが投与されるなどのリスクがあるためです
・ただし、どの患者を高リスクとするかも難しい点です
予防
①適切なサイズの気管チューブの選択
・一般的に認められている最大の気管チューブサイズは男性8.0mm、女性7.0mm
・ただしサイズを小さくすると気管支鏡手技が困難になり、呼吸仕事量の増加にもつながる
②挿管期間を最小限にする
・PESがある患者は、ない患者と比較して挿管期間が長い
・ただし、明確なカットオフ期間はない
・不必要な挿管期間の延長はすべきではない
・NIVの使用は早期抜管につながる可能性があるが、PESに対して有効かどうかは不明
③高カフ圧を避ける
・カフ圧を定期的に測定し、高カフ圧による圧潰瘍を防ぐ
・明確な根拠はないが、25cmH2Oのカフ圧を上限とすることが多い
・持続カフ圧モニタリングの使用は、人工呼吸器関連肺炎の発生率減少とも関連しているため、使用が推奨される
④予防的ステロイド全身投与
・PLE/PESのリスクが高い患者で、CLTが陽性の場合に抜管前のステロイド全身投与を行う
・2017年のmeta-analysisでは、CLT陽性患者に対してステロイド全身投与により、再挿管率の低下(6% vs 17% RR0.32 95%CI 0.14-0.76)、PESの発生率低下(11% vs 32% RR0.35 95%CI 0.20-0.63)を認めた
ステロイド投与のレジメン
4回投与レジメン:抜管12時間前から4時間毎にメチルプレドニゾロン20mg IV
単回投与レジメン:抜管4時間前にメチルプレドニゾロン40mg IV
治療
①再挿管
・PLE/PESによる呼吸不全が生じた場合は、必要があれば速やかに再挿管をする
・PLE/PESのリスクがあり、気道確保困難が予想される場合に、気道交換カテーテル(AEC:airway exchange catheters)を留置しておく方法もある
②ステロイド全身投与
・PLE/PESに対するステロイド全身投与に関する有効性は不明であり、決まったレジメンもない
・PLE/PESの予防量に準じて治療を行い、抜管後24~48時間継続する
③アドレナリン吸入
・血管収縮により、喉頭浮腫を軽減すると考えられているが質の高いエビデンスに欠けている
・小児分野では、重度のウイルス性クループによる上気道閉塞に対して上気道閉塞スコアを減少することが示されている
・他の原因による上気道閉塞にも有益な効果が示唆されている
・最適な用量は不明だが、アドレナリン1mgを5mLとしてネブライザーで使用することが推奨されている
④ヘリウム酸素混合ガスの吸入
・気道抵抗と呼吸仕事量の減少効果がある
・小児領域で有効性が示唆されている
PLE/PESによる呼吸不全に対して①以外の方法で粘りすぎないことが重要!
参考文献
Crit Care. 2015 Sep 23;19(1):295.(PMID: 26395175)
up to date(2024/5参照)
コメント
コメント一覧 (1件)
重症患者の原病がやっとコントロールされたと安堵しているときに最後に立ちはだかるのがこの疾患です。確立したリスク評価、治療がないところが難しいところです。