Take Home Message
•胸痛がなくても心筋梗塞は起こりうる:呼吸困難、冷汗、悪心、倦怠感などの非典型症状に注意が必要
•ハイリスク患者を見極める:高齢者、女性、糖尿病患者、心不全既往例では、非典型症状での発症が特に多いことが知られている
•診断の遅れは予後を悪化させる:非典型的な症状であっても、心筋梗塞の可能性を常に念頭に置き、迅速な心電図検査と心筋逸脱酵素の測定が重要
はじめに
急性心筋梗塞(AMI)と聞くと、多くの人が「激しい胸痛」を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際には胸痛を伴わずに発症する心筋梗塞も少なくなく、これを「非典型症状」による発症と呼びます。特に救急外来では、これらの非典型的な症状をいかに見逃さず、迅速な診断と治療につなげるかが、患者の予後を大きく左右します。
胸痛以外の「非典型症状」とは?
心筋梗塞の非典型症状として頻度が高いものには、以下のようなものがある
•呼吸困難(息切れ)
•冷汗(発汗)
•悪心・嘔吐
•倦怠感(疲労感)
•めまい、失神
•上腹部痛
•肩・腕・首・顎への放散痛
非典型症状で発症しやすいハイリスク患者
American College of Cardiology Foundation(ACCF)およびAmerican Heart Association(AHA)のガイドラインでは、特定の患者層で胸痛を伴わない心筋梗塞が多いことが指摘されている [1] [2]。
高齢者
高齢者では、加齢に伴う感覚の鈍化や認知機能の低下、複数の併存疾患の影響で、典型的な症状が出にくい傾向がある。呼吸困難や意識障害、突然の混乱といった症状が前面に出ることが多く、心筋梗塞が見逃されるリスクが高まる [3]。
女性
女性は男性と比較して、非典型症状で発症する割合が高いことが知られている。特に、異常な疲労感、上肢・顎・背部への痛み、消化器症状(悪心・嘔吐)などが特徴的 [4]。これらの症状は他の疾患と誤解されやすく、診断の遅れにつながることがある。
糖尿病患者
糖尿病の合併症である神経障害は、痛覚を伝える神経の機能を低下させる。その結果、心筋虚血による胸痛を感じにくくなることがある。これを「沈黙の心筋梗塞(Silent Myocardial Infarction)」と呼び、症状が全くないか、非常に軽微なために診断が遅れ、予後が悪化する一因となる。
診断の遅れを防ぐために
非典型症状による心筋梗塞は、診断の遅れが予後の悪化に直結する。特にリスクの高い患者(高齢者、女性、糖尿病患者、心不全既往例)が、上記のような非典型的な症状を訴えて来院した場合は、「胸痛がないから心筋梗塞ではない」と安易に判断せず、積極的に心筋梗塞を疑う姿勢が重要。
引用文献
1.Bhatt DL, Lopes RD, Harrington RA. Diagnosis and Treatment of Acute Coronary Syndromes: A Review. JAMA. 2022;327(7):662–675.
2.Wright RS, Anderson JL, Adams CD, et al. 2011 ACCF/AHA Focused Update Incorporated Into the ACC/AHA 2007 Guidelines for the Management of Patients With Unstable Angina/Non-ST-Elevation Myocardial Infarction. J Am Coll Cardiol. 2011.
3.Damluji AA, Forman DE, Wang TY, et al. Management of Acute Coronary Syndrome in the Older Adult Population: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2023.
4.Mehta LS, Beckie TM, DeVon HA, et al. Acute Myocardial Infarction in Women: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2016.

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